継続率向上戦略とは?効果的な顧客維持施策と実践的アプローチを徹底解説

継続率向上は、現代のビジネス環境において企業の持続的成長を支える重要な戦略です。

新規顧客への販売コストは既存顧客への販売コストの5倍かかり(1:5の法則)、顧客維持率や利益が増加するという米国コンサルティング会社Bain & Company社の名誉ディレクターフレデリック・F・ライクヘルド氏が提唱した法則が示すように、継続率の改善は収益性に直結する施策といえます。(参照:いまさら聞けない「LTV」のキホンのキ 改善のための3ルート,日経XTREND,2025/5/30閲覧)

本記事では、継続率向上に効果的な戦略と具体的施策、実践的なアプローチ方法を詳しく解説し、自社ビジネスに活かせる実用的な情報を提供します。

継続率低下の主な要因と早期発見のポイント

継続率向上を実現するためには、まず継続率が低下する要因を正確に把握し、その兆候を早期に発見することが重要です。顧客の離脱要因は多岐にわたりますが、以下のような主要なパターンを理解することで、予防的なアプローチが可能になります。

継続率低下の主要要因早期発見の指標予防・対策のポイント
価値認識不足利用頻度・特定機能の使用率低下オンボーディング強化、価値の可視化
顧客ニーズとのミスマッチ問い合わせ内容の乖離・想定外の質問増加セグメンテーション見直し、事前ヒアリング強化
カスタマーサポート不足同一問題の複数回問い合わせ・解決時間長期化FAQ充実、プロアクティブサポート導入
価格に対する不満価格関連問い合わせ増加・料金ページ閲覧頻度上昇価値提案の強化、柔軟な料金プラン検討

これから、継続率低下の主な要因とその早期発見ポイントについて解説します。

価値認識不足:利用頻度・特定機能の使用率低下に注目

価値認識不足は継続率低下の最も大きな要因の一つです。顧客が製品やサービスの真の価値を理解できていない、または期待していた効果を実感できていない状況を指します。

この問題は、顧客の利用データを継続的にモニタリングすることで早期に発見できます。また、トライアル期間中に製品の核となる機能を使用していない顧客は、正式契約後も継続利用しない可能性が高いとされています。

価値認識不足を防ぐためには、顧客が製品・サービスから価値を得るまでの時間を短縮することが重要です。オンボーディングプロセスの改善や、顧客の業界・業務に特化したユースケースの提供が効果的な対策となります。

顧客ニーズとのミスマッチ:問い合わせ内容の乖離から検知

顧客のニーズと提供している製品・サービスの機能や特性が合致していない場合、継続利用が困難になります。このミスマッチは、営業プロセスでの不適切なターゲティングや、過度な期待を持たせるマーケティングコミュニケーションが原因となることが多々あります。

ニーズのミスマッチは、顧客からの問い合わせ内容を分析することで発見できます。想定していた使用方法と異なる問い合わせが増加したり、製品の基本機能について繰り返し質問されたりする場合は、ニーズとのギャップが生じている可能性があります。

この問題に対処するためには、顧客セグメンテーションの見直しや、営業・マーケティングメッセージの調整が必要です。また、契約前の詳細なニーズヒアリングや、試用期間の活用により、ミスマッチを未然に防ぐことが重要です。

カスタマーサポート不足:同一問題の複数回問い合わせに警戒

適切なカスタマーサポートが提供されない場合、顧客の不満が蓄積し、継続率低下につながります。特に導入初期段階でのサポート不足は、顧客の離脱リスクを大幅に高める要因となります。

サポート不足は、同一顧客から同じ問題について複数回問い合わせがある場合や、問い合わせ後の解決時間が長期化している場合に発見できます。また、サポートへの問い合わせ内容が複雑化している場合も、十分なサポートが提供できていない兆候といえるでしょう。

サポート体制の強化には、FAQの充実、問い合わせ対応プロセスの改善、スタッフのスキル向上が効果的です。また、プロアクティブなサポートアプローチにより、問題が深刻化する前に介入することも重要な対策となります。

価格に対する不満:価格関連の問い合わせ増加で予測

価格に対する不満は、継続率低下の重要な要因の一つです。競合他社との価格比較や、期待していた効果に対する価格の妥当性に疑問を持った顧客は、解約を検討する可能性が高くなります。

価格不満の早期兆候としては、価格に関する直接的な問い合わせの増加に加え、料金ページの閲覧頻度増加、競合サービス比較サイトからの流入増加、決済遅延の発生などが挙げられます。また、アップセル・クロスセル提案への反応が急激に悪化した場合も、価格感度の高まりを示すシグナルといえます。

効果的な継続率向上のための5つの戦略

継続率向上のためには、顧客の離脱要因に応じた体系的なアプローチが必要です。ここでは、実践的で効果が実証されている以下の5つの戦略を詳しく解説します。これらの戦略は単独ではなく、組み合わせて実施することで、より大きな効果が期待できます。

継続率向上戦略対処する課題主要な施策内容期待される効果
オンボーディング強化価値認識不足による初期脱落チュートリアル、目標設定、進捗モニタリング初期離脱防止、価値認識の早期確立
カスタマーサクセス実施目標未達成による満足度低下ヘルススコア活用、定期レビュー、成功支援顧客の目標達成、解約リスク低減
顧客コミュニケーション強化ニーズミスマッチによる関係悪化パーソナライズド配信、双方向対話促進エンゲージメント向上、ミスマッチ解消
柔軟な契約・料金体系価格不満による解約検討スキップ機能、段階的プラン、透明な価格設定価格不満軽減、継続利用促進
顧客の声を活かす仕組みサービス改善機会の見逃し定期調査、改善実施、結果フィードバック顧客満足度向上、信頼関係構築

1. オンボーディング強化:価値認識を高め初期脱落を防止

オンボーディングは、顧客との関係性を決定づける最も重要なプロセスです。オンボーディングは、カスタマーサクセスの4つのうち最初のステップであり、顧客の継続利用につながるかどうかを左右する重要な取り組みです。適切なオンボーディングにより、顧客は短期間で製品・サービスの価値を実感し、長期的な継続利用の土台が構築されます。

効果的なオンボーディングには、段階的なアプローチが重要です。まず、顧客の目標を明確に把握し、それに応じたカスタマイズされたオンボーディングプランを作成します。次に、製品の基本操作だけでなく、顧客にとって最も価値ある機能や活用方法を重点的に伝えることが必要です。

オンボーディングの成功を測定するためには、明確なKPIの設定が不可欠です。オンボーディング完了率、完了までの期間、初期機能活用率などを継続的に測定し、改善につなげることで、継続率の大幅な向上が期待できます。

2. カスタマーサクセス実施:顧客の目標達成を支援し継続利用を促進

カスタマーサクセスは、顧客が製品・サービスを通じて目標を達成し、成功体験を得られるよう支援する活動です。一方的なサポートとは異なり、顧客の成功にコミットする姿勢が継続率向上の鍵となります。

効果的なカスタマーサクセス活動には、顧客の利用状況の継続的なモニタリングが欠かせません。データに基づいたヘルススコアを活用し、解約リスクの高い顧客を早期に特定して適切な介入を行うことが重要です。また、定期的な利用レビューやベストプラクティスの共有により、顧客の成功確率を高めることができます。

プロアクティブなアプローチも重要な要素です。顧客から問題が報告される前に、データ分析により潜在的な課題を発見し、解決策を提案することで、顧客満足度の向上と継続率の改善が実現できます。また、顧客の業界動向や競合情報を提供することで、付加価値を創出し、関係性を強化することも効果的です。

3. 顧客コミュニケーション強化:ニーズとのミスマッチを解消

継続的かつ価値あるコミュニケーションは、顧客との関係性強化に不可欠です。一方的な情報発信ではなく、顧客のニーズや状況に応じたパーソナライズされたコミュニケーションが効果的です。

コミュニケーション戦略では、タイミングと内容の最適化が重要です。新機能のお知らせ、活用事例の紹介、業界トレンド情報の提供など、顧客にとって価値ある情報を適切なタイミングで提供することが求められます。また、定期的なウェビナーやユーザーグループミーティングなどのイベントも、顧客エンゲージメントを高める効果的な手段です。

双方向のコミュニケーションも重要な要素です。顧客からのフィードバックを積極的に収集し、製品・サービスの改善に活かすことで、顧客の参画意識と満足度を高めることができます。また、顧客の成功事例を他の顧客と共有することで、コミュニティ感の醸成と継続利用の動機付けにつながります。

4. 柔軟な契約・料金体系:価格不満を軽減し解約を抑制

顧客のニーズや状況は時間とともに変化するため、柔軟な契約・料金体系を提供することが継続率向上に効果的です。画一的なプランではなく、顧客の成長段階や利用状況に応じた多様な選択肢を用意することが重要です。

柔軟性を高める具体的な方法として、サービスの一時停止(スキップ)オプション、利用量に応じた変動料金制、契約プランの柔軟な変更などが挙げられます。特に、サブスクリプションモデルを採用している場合は、顧客のライフステージやビジネスの成長に合わせて、スケールアップ・ダウンできる料金体系が重要となります。

価格透明性の確保も継続率向上に寄与します。料金体系を明確にし、追加費用が発生する条件を事前に説明することで、顧客の信頼を獲得し、予期しない費用による解約を防ぐことができます。また、長期契約者に対する優遇制度や、継続利用に応じた割引制度なども効果的な施策です。

5. 顧客の声を活かす仕組み:意見を取り入れ改善し満足度アップ

顧客からのフィードバックを積極的に収集し、製品・サービスの改善に活かすサイクルを構築することが継続率向上の重要な要素です。フィードバックの収集方法としては、定期的な満足度調査、インタビュー、ユーザーテストなどがあります。

収集したフィードバックは、単に集めるだけでなく、実際のアクションにつなげることが重要です。顧客の要望に基づいた機能改善や新機能の開発を行い、その結果を顧客に報告することで、顧客の参画意識と満足度を高めることができます。

また、フィードバックループの可視化も効果的です。顧客の声がどのように製品・サービスの改善につながったかを具体的に示すことで、顧客との信頼関係を強化し、継続的な協力関係を構築することができます。

業種別の継続率向上事例

継続率向上の具体的アプローチは、業種やビジネスモデルによって大きく異なります。以下では、主要な業種における成功事例を詳しく紹介し、それぞれの特性に応じた効果的な施策を解説します。これらの事例から、自社に適用可能な要素を抽出し、実践に活かしてください。

SaaS企業の事例

Salesforce社では、カスタマーサクセス概念の先駆者として、包括的な顧客成功支援プログラムを構築しています。同社は「Customer Success Platform」を通じて、顧客の利用状況をリアルタイムで監視し、解約リスクの高い顧客を早期に特定するシステムを開発しました。

この取り組みにより、Salesforce社は業界最高水準の継続率を維持しています。特に注目すべきは、顧客セグメント別のオンボーディングプログラムです。企業規模や業界に応じて異なるオンボーディングパスを用意し、各顧客にとって最も価値ある機能を優先的に習得できるよう支援しています。

HubSpot社も継続率向上の優秀事例として知られています。同社は無料プランから有料プランへのアップグレード戦略と、段階的な機能開放により、顧客の成長に合わせたサービス拡張を実現しています。特に、マーケティング教育コンテンツの無料提供により、顧客のスキル向上を支援し、同時に自社サービスの価値を高める戦略が効果的です。

参照:先進企業に見るカスタマーサクセスの極意 熱狂ファンが客を呼ぶ

,日経XTREND,2025/5/30閲覧

HubSpotの株価、顧客維持率の改善を背景にアウトパフォーム評価で支持される,Investing.com,2025/5/30閲覧

ECサイト運営企業の事例

AmazonのPrime会員制度は、ECサイトの継続率向上施策として最も成功した事例の一つです。年会費制でありながら、配送料無料、Prime Video、Prime Music等の付加サービスにより、総合的な価値を提供しています。Prime会員の継続率は90%を超えており、一般顧客と比較して購入頻度や客単価が大幅に高いことが報告されています。

参考:Amazonを利用する最大の理由は「品ぞろえ」。継続率9割を超えるプライム会員など【アマゾン最新情報】,impressBUSINESSMEDIA,2025/5/30閲覧

定額制動画配信サービスを2人に1人が利用中、人気はAmazonプライム・ビデオ、Netflix、U-NEXT(Appliv TOPICS調べ),PRTIMES,2025/5/30閲覧

携帯電話キャリアの事例

NTTドコモは、d払い、dポイント、dTV等のエコシステム構築により、通信サービスを超えた総合的な顧客価値を提供しています。ライフステージに応じたサービス提案や、家族向けのシェアパック等により、解約障壁を高めることに成功しています。

これらの事例から分かるように、業種に関係なく成功する継続率向上戦略には、顧客理解に基づく価値創出、テクノロジーを活用した個別最適化、エコシステム構築による解約障壁の向上という共通要素があります。

参照:通信市場の動向について,総務省,2025/5/30閲覧

ドコモdカードプラチナ好調 社長100万件超えに自信,日本経済新聞,2025/5/30閲覧

まとめ:持続的な成長のための継続率向上

継続率向上は、企業の持続的な成長と安定した収益基盤の構築において不可欠な戦略要素です。継続率向上は一度の施策で完結するものではなく、継続的な取り組みが必要です。顧客のニーズや市場環境の変化に応じて戦略を調整し、常に改善を続けることが重要です。また、組織全体での取り組みが不可欠であり、営業、マーケティング、カスタマーサクセス、プロダクト開発など、全部門が連携して継続率向上に取り組む体制の構築が成功の鍵となります。

今後の競争環境においては、新規顧客獲得の難易度がさらに高まることが予想されます。だからこそ、既存顧客との関係性を深め、継続的な価値提供を通じて長期的なパートナーシップを構築することが、企業の競争優位性確立と持続的成長の実現につながるでしょう。

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